来年の大統領選で再選を目指すトランプ米大統領にとっても、経済危機は避けたいのが本音だ。

「私は暴力的な弾圧を見たくない。もし習近平氏が望むのであれば、人道的な方法で解決できるだろう。抗議する人々の代表グループと話し合えばいい」

 トランプ米大統領は8月15日に記者団にこのように語り、近く習近平主席と電話で協議することを明らかにした。中国政府の介入を牽制しつつ、香港問題を米中貿易戦争の“カード”として利用している。

 最後に鍵を握るのはやはり習近平主席だ。デモを放置すれば威信が傷つき、強権的な姿勢で維持してきた自らの政治基盤が揺らぐ。一方で強攻策にでると経済危機につながり、香港だけでなく中国市民の反発も招いて、中国共産党の一党独裁体制さえ崩壊しかねない。

 習近平主席としては香港政府を通じて市民を懐柔し、デモをできるだけ早く収束させたいところだ。実際、香港政府は8月15日に各世帯にお金をばらまく緊急の支援策を発表するなど、「アメ」を必死にアピールしようとしている。

 それでも学生たちのデモが収まる保証はない。そもそも「一国二制度」自体に無理があり、いずれ強攻策を取らざるを得ないとの見方もある。前出の大手メディア記者は、中国政府への不信感はデモ隊だけでなく香港市民にも広がっていると指摘する。

「学生たちは、習近平主席が香港政府を操って警察にデモ隊を襲撃させていると訴えています。こうした中国政府を批判する主張に、多くの香港市民が共感しています。強権的な姿勢を続けてきたことに加え、中国の富裕層が香港の不動産を買い占めるなど経済的に中国にのみ込まれてしまうという危機感があるからです。『一国二制度』という幻想は崩れつつあり、中国政府が武力介入するのではないかとの不安が高まっています」

 柔軟策でも強攻策でもダメージが避けられない習近平主席。選択肢が狭まるなか、デモ隊のように臨機応変に立ち回れるのか。人命や世界経済が関わる重大問題だけに、その決断から目が離せない。
(本誌・多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事