空港当局は2日間で約600便の運行を取りやめ、デモは世界的に注目された。香港政府とその後ろ盾となっている中国政府の威信は傷ついた。

 デモ隊に紛れていた中国の報道機関の記者らが暴行を受けたこともあり、暴徒化も指摘されたが、取材した記者は全体的には落ち着いていたと感じたいう。

「デモ隊は黒いTシャツを着てマスクはしていますが、棒などの武器は持っていません。若い女性も多く、外国人や一般市民が身の危険を感じることはありませんでした。以前のデモで参加者の目を負傷させたとして警察への反感は強いのですが、暴徒化している感じは受けませんでした。空港の警備員や警察は積極的に排除せず、傍観せざるを得ない状況だったのです。報道の自由がない中国系メディアはデモ隊の暴徒化を強調していますが、地元では同情的な報道も目立ちました」

 裁判所が空港内でのデモを禁じる命令を出したこともあって、8月14日以降は参加者が減り空港の機能は回復。デモはいったん縮小したが、抗議活動が収まる気配はない。

 緊張を高めているのは中国政府の動きだ。「テロリズムの兆候も現れ始めた」などと強く非難し、米国など外国勢力が学生らを扇動していると主張。香港の近くで警察などによる大規模なデモ対策訓練も実施し、鎮圧に乗り出すのではないかと警戒されている。

「情報機関によると、中国政府は香港の境界へと部隊を移動させている。みんな落ち着いて安全第一に」

 トランプ米大統領は8月13日にこうツイートし、中国政府を牽制(けんせい)した。

 もし、中国政府が直接デモを鎮圧し死傷者がでる事態となれば、影響は計り知れない。

 高度な自治を保障するはずの「一国二制度」が崩壊。欧米や日本との関係が冷え込み、中国は世界的に孤立する。「一国二制度」による統一を目指してきた台湾との関係も、根本的な見直しを迫られる。

 経済的にも深刻な影響が予想される。中国は香港を通じて多額の資金を集めており、香港経済の混乱は中国経済を揺さぶる。世界経済は米中の貿易戦争でただでさえ不安定化しており、武力介入は「世界経済危機」の引き金を引きかねない。

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香港問題を米中貿易戦争の“カード”として利用するトランプ米大統領