力投する津田学園先発の前(C)朝日新聞社
力投する津田学園先発の前(C)朝日新聞社
八回裏、再びマウンドに立った津田学園の前は、内倉を左飛に打ち取り、ベンチ前で捕手の阿萬田とグラブを合わせる(C)朝日新聞社
八回裏、再びマウンドに立った津田学園の前は、内倉を左飛に打ち取り、ベンチ前で捕手の阿萬田とグラブを合わせる(C)朝日新聞社

 プロ注目の右腕、津田学園(三重)の前佑囲斗(まえ・ゆいと)が、13日の第101回全国高校野球選手権大会2回戦で、履正社(大阪)の強力打線に屈した。だが、最後に待っていたのは、仲間からのすてきな「プレゼント」だった。

 前は、1回戦の静岡戦で1失点完投。自己最速の144キロを計測した直球に加え、変化球を効果的に配して11三振を奪った。しかし、この日は、1回戦で大会記録に並ぶ1試合5本塁打を記録した履正社に序盤からつかまった。

 1点リードされて迎えた三回、前は3連続を含む5長短打を浴びて5点を献上した。被安打9、6失点で、この回限りで降板。四回から一塁の守備に回った。強力打線を相手にして丁寧にコースを狙うことを意識しすぎたのか。腕の振りが小さく鈍くなった。

「初球からどんどん振ってくるチーム。食らいついてきてコースをついても打ち返されるし、バットの先に当たっても外野に運んでいく。やりにくい打線だと思った。相手が一枚上」

 それでも、四回から前を救援した降井(ふるい)隼斗が粘り強く投げて相手打線を1失点に抑えた。そして八回2死から、前は再びマウンドに上がった。

「ありがとう」

 前が降井に感謝を述べると、「頼むわ」の一言でマウンドを託された。やる気が高まった。

 降井とはライバルというより、一緒に戦う戦友という気持ちで接してきたという。春以降、めきめきと力をつけてきた降井を頼もしく思い、信頼はさらに高まって甲子園を迎えた。

 降井に関する質問をすると、決まって前の瞳は潤んだ。

「降井が苦しみながらも粘ってくれた。その思いを受け止め、少しでも良い流れで九回を迎えたかった」

 気迫の全力投球で5番・内倉一冴(かずさ)を左飛に打ちとった。最終回は無得点に終わり、内倉との対戦が甲子園最後のマウンドになった。

「みんながもう一度マウンドに戻してくれた。高校人生で最高の瞬間でした」

 この日は前の18歳の誕生日。2度目のマウンドは仲間からの特別な贈り物となった。

 前の第1打席では、応援席から「ハッピーバースデー」の大合唱が起こった。一般の観客からも、拍手で祝福された。

「18歳の誕生日を甲子園という舞台で祝ってもらって幸せだなと思った」

 勝利には届かなかった。だが、憧れの舞台でかけがえのないプレゼントを手にした日となった。(内山賢一)

※週刊朝日オンライン限定記事