「セカンドが一塁側に寄っていたのはわかっていたのですが。それでも、ダブルプレーにならない打球を打とうと」

 ベンチに戻ったあと、これまで以上の声を絞り出した。

「つなげ、つなげ」

 仲間を信じた。が、思いは届かなかった。

 チームでは3番を任されることもある。長打も打てる選手だが、「つなぎ役に徹したことに後悔はありません」と言い切った。

 犠打、二塁打2本と四球。つなぐ野球は体現できた。それでも、「勝たなきゃ意味がない。点を取った後に点を取られた。反省です」。

 1年間、主将としての苦悩もあった。試合終了後は淡々とした表情で記者の質問に答えたが、心の中では「泣かないように」と必死でこらえていた。

「おじいちゃんは、長坂くんに甲子園に連れてきてくれてありがとうと口にしていたよ」

 質問がスタンドの祖父に及ぶと、こらえていた涙があふれてきた。野球を始めるきっかけになった祖父。「おじいちゃんに勝利を届けたかった。ありがとうと伝えたい」

 10年前に見たあの夏を超える「優勝」の夢は、後輩たちに託した。(本誌・田中将介)

※週刊朝日オンライン限定記事