さらに平塚医師は、

「視覚は、介護が必要になったり寝たきりになったりせずに日常生活を送れる『健康寿命』を大きく左右します」

 と指摘する。

 国民生活基礎調査(2016年)の「介護が必要となった原因」で、「視覚・聴覚障害」は第12位だった。しかし「上位に挙がったほとんどの項目に視覚障害がかかわっている」と平塚医師は言う。

 まず第1位の認知症。視覚障害があると、認知症予防となる社会参加や、外出や趣味を楽しむなど刺激的活動の機会が減少しがちになる。米国やヨーロッパでそれぞれ独立しておこなわれた、1万~2万人規模の三つの研究では、いずれも「全ての年齢層において、視覚障害がある人はない人に比べて認知レベルが低い」という結果が示された。

 第3位になった「高齢による衰弱(身体活動量の低下)」も、視覚と深いかかわりがある。眼の障害を抱えていると、歩行や階段の上り下りなどをスムーズにおこなうことができず、日常生活を送る上で必要となる機能(ADL)の困難は2倍程度になるという報告がある。平塚医師らがおこなった最新の研究でも、見え方が悪い人の身体活動量は、よく見えている人に比べると明らかに低下していることがわかった。

 第4位の「骨折・転倒」も視覚障害との関連が明らかだ。米国・英国の老年医学会と米国の整形外科学会が出している「転倒予防ガイドライン」で、「視覚障害による転倒リスクは2.5倍になる」と報告されている。国内の入院患者を対象におこなわれた研究ではさらに高い「14倍」という数字が示された。

「視覚障害を改善させることで、要介護の原因となっている病気を防いだり、進行を抑えられる可能性があります。ひいては健康寿命を延ばすことにつながっていくのではないでしょうか」(平塚医師)

 加齢による眼の病気では、緑内障のような失明につながる病気ばかりが取り上げられがちだが、前出の矢島医師は、

「当院を受診する高齢者で最も多いのは流涙症(涙目)です」

 と話す。

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