通常、健診や眼科の検査では、まず視力と眼圧の計測をする。病気の疑いがあるかどうかふるい分けるための有用な検査だが、落とし穴もある。矢島医師はこう話す。

「白内障になっていても、けっこうよい視力が出ることもあります。また、緑内障も、日本人の場合は、眼圧が正常範囲内に収まる『正常圧緑内障』というタイプが多くを占めています。病気があっても、視力測定や眼圧に異常が出ない場合もあるのです」

 そこで頼りになるのが「眼底検査」だ。眼底鏡を用いて、瞳孔の奥にある眼底部分の出血や白斑、濁り、動脈の詰まりやむくみ、視神経の状態などを観察することで、多くの眼の病気を見つけることができる。

 さらに順天堂大学眼科学講座先任准教授の平塚義宗医師は、

「眼底検査は高血圧や糖尿病、動脈硬化といった全身の病気や、脳卒中や心疾患など重篤になりがちな病気のリスクも見つけることができます」

 と話す。

 特に注意すべきは網膜に「軟性白斑」と呼ばれる白い綿花のような斑点があるケースだ。網膜の血流が悪くなり、視神経線維がむくむと軟性白斑が現れる。

「軟性白斑は血糖値や血圧が高い人、動脈硬化が進んでいる人に多く見られ、軟性白斑がある人は、ない人に比べると脳卒中の発症率が7倍になるという研究報告があります」(平塚医師)

 軟性白斑以外にも「細動脈瘤(網膜の細い血管のコブ)」「斑状出血(網膜の細かい出血)」がある場合も、脳卒中の発症率は通常の4~5倍に高まる。

 これらの前段階として▽細動脈狭細(細い動脈がより細くなる)▽交叉現象(血管が交わる部分の異常)▽反射亢進(血管内の血液が反射して金属のように見える現象)が確認できる場合もある。

 また、眼底の状態は、糖尿病とも深くかかわっている。高血糖状態が続くことによって網膜が傷み、視力が低下する「糖尿病性網膜症」は、緑内障、網膜色素変性に次いで失明原因の第3位。眼底検査で網膜の異常を指摘され、初めて糖尿病に気づく人もいる。

「網膜に軟性白斑などの血管病変が見つかった場合は内科を受診し、できるだけ早く血糖値や血圧などのコントロールを始めることが大事です。正常範囲内に収まれば、軟性白斑は消失し、網膜もきれいな状態に戻ります」(同)

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