「最初に飛蚊症が出たときに受診し、医師から『年のせいだから大丈夫。見えていても気にしないで』と言われると、それとは異なる新たな飛蚊症が出てきても、そのままにしてしまう人が少なくありません。飛蚊症が増えてきたときは必ず受診してください」

 白内障は、濁った水晶体を取り除き、そこに人工の眼内レンズを埋め込む手術をすれば、十分な視力の回復が期待できる。現在は濁った水晶体を取り除く際に、2~3ミリの小さな切開創から機器を挿入し、超音波で水晶体を細かく砕いて吸引する方法が主流だ。手術時間は15分ほどで、からだへの負担も少なく済む。クリニックで、日帰り手術を受ける人も多い。前出の落合さんも、

「放置して悪化させたとしても、手術すれば見えるようになるんだから同じだろう」

 と軽く考えていた。しかし矢島医師は言う。

「白内障が進行すると水晶体はキャラメルのように茶色く硬くなり、吸引が難しくなります。そうなったら、水晶体を砕かずにそのまま取り出さなければなりません。創は大きくなりますし、より高度な技術が必要になります。また高齢で体力が低下していたり持病が多かったり車いす生活だったりすると、さらに合併症の危険が高まり、手術を受けられる病院も限られます。手術のタイミングは生活スタイルなどによってさまざまですが、不自由を感じているならあまり先延ばしにせずに、検討するといいでしょう」

 一方、緑内障や加齢黄斑変性、網膜疾患は完全に治す方法はないが、病状の進行を止めたり遅らせたりすることが可能だ。緑内障ではおもに、眼圧を下げる点眼薬を使う薬物治療、レーザー治療、手術がおこなわれる。加齢黄斑変性は、薬物の眼球内注射、レーザー治療のいずれか、あるいは二つを組み合わせる。網膜疾患では、網膜に孔ができただけの網膜裂孔であれば網膜周辺にレーザーを当てて網膜剥離に進行するのを予防できる。すでに網膜剥離を起こしている場合は、剥がれた網膜を元の位置に戻す「網膜硝子体手術」が基本だ。矢島医師は言う。

「いずれの病気も早期であればあるほど、より負担が軽い治療で済むだけでなく、視力を維持できる可能性が高まります。失明を防ぐためにも、できるだけ早く適切な治療を受けることが大事です」

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