今回の問題の背景に「政治的意図による弾圧」があるというのは、戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏だ。

「河村市長は『これは日本人の心を踏みにじるようなものだ』などと、まるで自分が日本国民を代弁しているかのような口ぶりです。大阪市の松井市長も、『我々の先祖がケダモノのように扱われる展示』などと発言していますが、あの少女像を見てそんなことが言える根拠があるのでしょうか。私たちが勘違いしてはならないのは、あの少女像は戦時性暴力を告発しているのであって、いまの日本を攻撃するものでも非難するものでもないということです。大日本帝国にシンパシーを感じている政治家たちが自分たちの政治的意図を達成するために、あたかも日本人全体に対する攻撃であるかのように話をすり替えているのです」

 河村市長はこれまでも「南京虐殺」を否定するなど、発言が問題となっていた。安倍首相も呼び掛け人となっていた南京虐殺を否定する集会にも関わっていた。

「そのことからして、河村市長の発言はバイアスがかかっているのです。大日本帝国の名誉を守りたい歴史修正的な態度です」(山崎氏)

 京都アニメーション放火事件を思わせるような脅迫もあり、愛知県は県警に被害届を出した。「大至急撤去しろや、さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで」などと記した文書をファクスで送ったとして、県警は男性を逮捕した。男性はコンビニエンスストアからファクスを送ったとみられ、防犯カメラの捜査などから浮上したとみられる。

 ほかにも、会場で「ガソリンだ」などと言って、持っていたバケツ内の液体を警察官の足にかけたとして、男性が8月7日に逮捕された。脅迫や妨害行為についての捜査は進むが、表現の自由を守るのは簡単ではない。

 菅官房長官は8月5日の記者会見で「一般論で言えば、暴力や脅迫はあってはならない」と述べたが、山崎氏は「一般論」という言葉を足したことに疑問をぶつける。

「明らかなテロ予告なのですから、留保なしに全否定するべきです。それを一般論としてという前置きを入れるということは、それに当てはまらないケースもあるということになる。いま、政府の方針に疑問を呈したり、否定したりする者は、国全体への反逆行為とみなされてしまう。本当に危険な空気になってきています」

 安倍政権は元徴用工問題や半導体関係品目の輸出規制などを巡って、韓国と対立している。日韓関係は「戦後最悪」とも言われ、今回の問題も深刻化する対立が伏線となっている。韓国への反感があおられるなかで、表現の自由が揺らいでいる。

(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日オンライン限定記事