このように、介護しながら家族旅行を成功させるために大切なポイントは、「本人の行きたいという思い」を尊重することという。

『おでかけは最高のリハビリ! 要介護5の母とウィーンを旅する』(雷鳥社)の著者、たかはたゆきこさん(45)は、母・浩美さん(72)と叔母が「ウィーンに行きたい」と話していたことを知り、寝たきり状態だった母に「ウィーンに行こうね」と励まし続けた。

「周囲からは『ウィーンに行く』というのは冗談半分だと思われていましたが、願いを言葉にすることで、自分自身を鼓舞できた。旅に行くという具体的な目標ができたので、母は懸命にリハビリをして、達成したことでまた元気になった。母が元気になったので私も介護ヘルパーの職に就くことができた。旅行は私たち家族の背中を押してくれました」(ゆきこさん、以下同)

 実際にウィーンに行くまでには2年半ほどかかったが、その間、入念に旅の計画を立てた。行き先が決まったら、渡航の日程を先に決めたほうがいいという。

お金がたまってからと思っていると、いつまで経っても実行できない。飛行機で条件のよい座席を確保するためにも、日程は早めに決めたほうがいい」

 お金はゆきこさんのアルバイト代や母の貯金などから80万円を捻出した。

 渡航までの2年半の間、モチベーションを維持するためにウィーンの写真や「現在○○万円たまった」といった言葉を付箋に書き出し、母の目につくところに貼って気分を盛り上げた。

 飛行機の予約の次は、宿泊施設を決めよう。旅行会社は実績のあるところを選ぶと、スタッフも対応が慣れているので安心できる。

「バリアフリーツアーデスクがある旅行会社に電話をかけて、詳しく母の体の状態を伝えました。古い建物を改装したホテルではなく、最近建てられたホテルのバリアフリールームがいいと、アドバイスのとおり予約しました。成田空港の近くで前泊したホテルもバリアフリールームで快適でした」

 空港から宿までの車の手配や旅の目的であるコンサートホールなど、観光地までの移動時間やトイレの場所、車いすで移動できるかどうかといった詳細な情報をインターネットで集めた。現地の様子はグーグルマップや現地に住む日本人などからも直接聞いて確かめたという。

 そして、万が一、旅先で体調を崩したときに備えて、いざというときの対策を考えておく。海外旅行保険に加入するのはもちろん、お薬手帳に書かれている薬の情報は英語、ドイツ語に訳したものを持参した。

 旅先に持っていくものはリストアップして、トランクに入りきらないかさばるおむつやティッシュペーパー、ビニール、防水シートなどは段ボールに詰めて事前に宿泊先のホテルに送っておいたという。

「長時間のフライトで母が疲れてしまい、クルージングはあきらめてしまいましたが、念願のコンサートホールでの演奏を聴くことができた。満面の笑みを浮かべる母の顔を見て、私もここまでやってよかったと嬉しくなり疲れが吹き飛びました」

 家族旅行は介護する家族にとっても前向きになれるツールのひとつなのだ。(ライター・村田くみ)

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