なめがた地域医療支援センター (c)朝日新聞社
なめがた地域医療支援センター (c)朝日新聞社
【表1】各種サービスで消滅する可能性が高まる人口規模  (週刊朝日2019年8月9日号より)
【表1】各種サービスで消滅する可能性が高まる人口規模  (週刊朝日2019年8月9日号より)

 あなたの住む街は大丈夫だろうか? どれくらいの人口規模であれば、病院介護事業所などの経営が成り立つかを示した国土交通省の資料を元に、本誌は、将来それらの施設が消える可能性が高い自治体をまとめた。

【データ】病院、スタバ…身近な施設がこの人口規模を下回ると消滅する可能性が!

 茨城県南東部にある行方(なめがた)市。2000年に約4万1千人いた人口が、18年には約3万3千人に減少した。

 ここでいま渦中にあるのが、地域医療の拠点「なめがた地域医療センター」だ。00年の開院で、内科や外科、小児科、産婦人科など診療科目は25科、入院できる病床(ベッド)数は199床あり、救急患者も受け入れてきた。

 しかし、人口が減り、患者数は大きく減少。入院患者数は08年度に5万4千人(延べ)だったのが18年度には4万1千人に、外来患者は15万5千人だったのが11万4千人に減った。医師の確保が難しくなったことも患者減に輪をかけ、経営は赤字が続いた。

 運営するJA県厚生連は、病院機能の縮小を決断。今年4月から病床数は49床に減らし、病床が置かれていた4階フロアは完全に休止。常勤する医師の数は最大19人から10人に減少。外科医は3人から1人になり、手術はできなくなった。救急は、診療時間外の受け入れをやめた。縮小した機能は20キロ以上離れた土浦協同病院(土浦市)などが担う。

 なめがた地域医療センターの担当者は、病院の経営環境は厳しくなっていると語る。

「人口減少に加え、高齢化が進み、医療ニーズが変わった。救急よりも慢性的な病気が増えている。医師も都市部の病院を選ぶようになり、確保が難しい。医療費抑制で診療報酬も年々下がり、収入も減っている。これまでの体制を維持するのが難しくなっている」

 地域住民には不安が広がっている。近くに住む女性(67)はこう嘆く。

「2月に急に縮小すると聞いて驚いた。近くにいつでも救急を受け入れてくれる病院があるのとないのとでは安心感が違う。これから眼科が休診すると聞いており、お年寄りの方からは『遠くの病院まではなかなか行けない』という声も出ている。引っ越しを検討している人もいて、過疎化が一層進むと思うと、気分が暗くなります」

「これから人口減少が続く中でこれまでどおりのサービスを維持できなくなる可能性があります」

 こう語るのは国土交通省国土政策局の担当者。日本の総人口は約1億2千万人。人口に占める高齢者の割合は増加し続ける一方、出生数は減少を続けている。国立社会保障・人口問題研究所の試算によると、30年には1億2千万人を下回り、40年には1億1千万人を切るところにまで人口が減る。その後、2100年には5900万人まで激減すると予測されている。

 この長期的な人口減少にともない、多くの自治体で私たちの生活に身近な医療や福祉、商業などの各機能が低下する恐れが出ているのだ。そこで一つの目安として、国交省が14年にまとめたのが【表1】だ。

【表1】各種サービスで消滅する可能性が高まる人口規模
サービス施設      全国 /都市圏以外
地域医療支援病院    225,000/97,500
一般病院        7,500/5,500
有料老人ホーム     52,500/42,500
訪問介護事業      22,500/8,500
百貨店         275,000/275,000
ショッピングセンター  87,500/77,500
スターバックスコーヒー 175,000/175,000
ハンバーガー店     27,500/32,500

<数字はそれぞれのサービス施設が一つでも立地する確率(一定人口規模で各サービスの事業所が存在する市町村数/一定人口規模の全市町村数×100)が50%以下になる人口規模を表す。単位はいずれも「人」。都市圏とは埼玉、千葉、東京、神奈川、岐阜、愛知、三重、京都、大阪、兵庫、奈良の3大都市圏。ショッピングセンターは店舗面積1万5千平方メートル以上が対象。国交省資料から作成>

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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