注意したいのは、高齢者や糖尿病の患者、女性。痛みを感じにくく、典型的な症状が出にくいからだ。米国救急医学会のデータでは、75歳以上の急性心筋梗塞の50%以上は胸痛が起こらず、「問題ない」と誤診されて帰宅した患者の11~25%が死亡している。

「喫煙者で血圧が高く、家族歴がある高齢者や糖尿病の患者さんは、冷や汗や吐き気などを伴う胸、肩、腕の違和感があったら、痛みがなくても診てもらったほうがいいと思います」(生坂さん)

■胸の圧迫感、冷や汗、息を吸うと強まる胸痛→肺塞栓症

 八重樫さんが胸痛で問題になる病気として挙げるのが、肺塞栓症だ。「エコノミークラス症候群」としても知られる病気で、血液の固まり(血栓)が肺に流れて肺の動脈を詰まらせる。息苦しさ、胸の圧迫感、冷や汗を伴う胸痛、息を吸うときに痛みが強まるなどの症状が特徴。2016年の地震では、車中泊をした被災者がこの病気で死亡した。高齢になるほどリスクは高まる。

 血栓は長時間、同じ姿勢だと生じやすい。車や飛行機での移動中はもちろん、自宅にいるときでも、ふくらはぎをもんだり、かかとやつま先を上げ下げしたりすることが予防につながる。こまめな水分摂取も心がけたい。

【背部痛】
■耐えられない痛みが胸から背中に降りる→胸部大動脈解離

 心臓から腰にかけて弓状に走る大きな血管の内側が突然裂けて、血管の壁の中に血液が流れる胸部大動脈解離。発症後24時間以内に7割以上が亡くなる恐ろしい病気だ。

 これまでに大動脈疾患で7千件以上の手術を行ってきた、川崎幸病院(川崎市幸区)院長で川崎大動脈センター長の山本晋さんは、痛みの出方について、「30分~2、3時間ほど続く。耐えられないような痛みが胸から背中に降りてくるような感じがあったら、胸部大動脈解離の可能性が高い」と説明する。

 胸部大動脈解離と似たような病気に「胸部大動脈瘤破裂」がある。大動脈にできた瘤が破けることで発症する。症状は軽い痛みから激痛までさまざまで、破裂前に背部痛が持続する兆候(切迫破裂)が表れることもある。

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