松本から擁護され社内の人事権を握るとされる大崎会長。その力の要因にもなっているのが、政治との関係だ。

 吉本は大崎体制のもとで行政や政治とのつながりを強化してきた。全国の地方自治体と地域PRの協定を結び、芸人が地方に移り住んで情報発信している。

 日本維新の会がトップを握る大阪市とは17年に包括連携協定を結んだ。2025年の大阪・関西万博開催にも、PRなどで一役買っている。維新代表の松井一郎・大阪市長は今回の問題に苦言を述べつつ、「この一件をもって大阪への貢献を全否定することにはならない」とかばった。

 吉本は公金が関わるビジネスにも乗り出している。今年4月には、NTTと教育コンテンツ配信事業を始めると発表。これに官製ファンドのクールジャパン機構が最大100億円を出す。公的資金による事実上の“補助金”だ。

 安倍政権との蜜月ぶりも目につく。安倍晋三首相は4月に、「なんばグランド花月」で吉本新喜劇に出演。主要20カ国・地域(G20)首脳会議をPRした。6月には首相公邸に、西川きよしさんら所属芸人を招いた。安倍首相は松本や東野の番組に出演したことがあり、17年には2人と焼き肉も食べた仲。政権のイメージアップに、会社や芸人が積極的に協力している。

 さらに大崎会長は、国や地方の複数の委員会に入るなど、行政の政策決定にも関わってきた。知的財産戦略本部(本部長・安倍晋三首相)の傘下の委員会では、コンテンツ制作や保護などを議論。安倍政権の最重要課題の一つである米軍普天間飛行場の移設計画を巡っては、基地跡地の利用について検討する「基地跡地の未来に関する懇談会」メンバーにも6月になった。

 吉本興業関係者はこうした関係もあって、大崎会長は辞められないと明かす。

「吉本がきちんとした会社になるには、行政とも協力していかなければならない。その調整ができるのは大崎会長だけ。今回の問題でも大崎会長が辞めることはあり得ません」

 吉本の経営問題がここまで注目されるのは、説明してきたように単なる一企業ではないためだ。メディアに多数の所属芸人が露出し、その人気を利用して行政や政治と関係を深める。そんな公共性の高い企業の経営体制に問題があるとしたら、無関心ではいられない。

 吉本は専門家による経営アドバイザリー委員会を設置し、法令順守やギャラの問題などをこれから議論するという。改革姿勢をアピールしたいようだが、芸人の待遇改善の具体策ははっきりしない。信頼回復にはやはり時間がかかりそうだ。
(本誌・太田サトル、上田耕司、池田正史、多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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