政治について触れる前に、まずは吉本興業の歴史をひもといておこう。吉本吉兵衛・せい夫妻が1912年に大阪で寄席経営を始めたのが発祥だ。本拠地の大阪・難波の「なんばグランド花月」で吉本新喜劇を公演するなど、関西を中心に親しまれてきた。近年では明石家さんまやダウンタウンら、テレビで活躍する芸人が増え全国的にファンを拡大。東京を含む全国に進出し、人材発掘や若手育成に力を入れている。

 株式を上場していたが、経営陣の主導で2010年に上場を廃止。いまの株主は東京の主要テレビ局や大手広告会社などとなっている。上場廃止で創業家や個人投資家などの影響力を弱め、取引先でもあるテレビ局との関係を深めることもできた。

 こうした全国進出や経営の近代化を進めてきたのが、09年に社長になった大崎・現会長だった。大崎会長はダウンタウンの育ての親として知られ、松本との結びつきが強い。いまの岡本社長や、「笑ってはいけない」シリーズでおなじみの藤原寛・副社長もダウンタウンの元マネジャーだ。

 その松本は東野や今田耕司、千原ジュニアら多数の芸人と交流があり、後輩の面倒も見ている。吉本は経営陣も芸人も“松本派”が主流だ。その松本は、「大崎会長がいなくなるなら俺も辞める」と言うほど大崎会長を擁護している。

 今回の内紛では、加藤が自身のクビを掛けて社長や会長の退陣を迫ったが、“加藤派”は少数。“加藤の乱”はすぐに鎮圧されてしまった。

 お笑い評論家のラリー遠田さんはこう言う。
「松本さんプラス大崎さんという2人が、社内では絶対的な存在。昔の吉本であれば個性豊かな人たちがいましたが、今は一元化されていて大崎さんとそのラインの人たちが幹部を占めている。加藤さんは人望があるので慕う後輩芸人はいっぱいいますが、事務所を辞めて活動できるかというとそれはまた別問題です」

 芸能リポーターの石川敏男さんは、本来社内の問題が視聴者を巻き込んで長期化していることに、疑問を感じるという。

「普通の企業で、『社長と会長が辞めなければオレは辞める』と言っても、どうぞという話ですよね。芸能人は明日いなくなっても、いつでも代わりがいると言われます。加藤さんが吉本を辞めたら、テレビ局が来年にも司会を代えることもあり得るんです」

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行政や政治と関係を深めた大崎会長