延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFMエグゼクティブ・プランナー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFMエグゼクティブ・プランナー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
今は亡きショーケン
今は亡きショーケン

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は故・萩原健一さん主演のドラマ「傷だらけの天使」を振り返る。

【写真】今は亡きショーケン

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「『傷天(しょうてん)』で有名な代々木会館が取り壊しです。1階のきぬちゃん食堂も」

 TFM在職中に北野武の『HANA‐BI』を担当した元社員Fからのメールである。「傷天」とはショーケン(萩原健一)のTVドラマ『傷だらけの天使』のこと。撮影に使われたビルの一角にある「きぬちゃん食堂」も6月27日深夜12時で終了、翌日に撤収される。

「エンジェルビル」こと代々木会館は香港の九龍城を彷彿とさせるレトロな風情、そこだけ時代に取り残された感じがした。Fと連れ立って夜7時に店に入ると東南アジア系の女性店員がイラッシャイマセと微笑んだ。ミックスフライ、砂肝炒め、特製目玉焼きにカレーライス。壁一面に手書きメニューが貼ってあり、いい大人がB級グルメに夢中になった。

 ドラマの中のショーケンは屋上のペントハウスに住んでいた。ドラム缶の風呂に入り、山手線の通過音で目を覚ますとゴーグルをおでこに上げて、コンビーフを牛乳で流し込んだ。牛乳瓶の紙の蓋を口で開けてごくごく飲む。そのアドリブが格好良かった。

 高校生だった僕も冒頭のこのシーンを覚えている。監督は深作欣二ら、脚本市川森一、木村大作撮影と豪華なスタッフに、ショーケン自らキャスティングした水谷豊とのコンビで、反抗と挫折を繰り返す探偵の下働きを演じた。

 ショーケンの衣装も印象的だった。BIGIである。報道ディレクターだった頃、BIGIのデザイナー(当時)だった菊池武夫さんの事務所に伺った。僕が暁星の後輩と知り、忙しい中、笑顔で出迎えていただいた。

 あの頃は寝る暇なんてなかった。とにかく新しいものを世の中は求めていた。そんな中、ショーケンに呼び出された。「まったく新しいドラマになる。衣装を頼みたい」と言う。どんなに華やかな場所にいてもいつも何かを考えている風だったショーケンが新しいドラマと言ったのが『傷だらけの天使』だった……。そんな話を伺った。

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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