「本格的な舞台は未経験だった私に、『あなたは歌えるし、センスがあるから、大丈夫よ!』って(笑)。クロマニョン人からユダヤ人、そこから現代の日本人へと生まれ変わる主人公も3人で演じることになっていて、複数の役を演じるのも初めてなら、男性役も初めて。時代も性別も物理も超越できるところは、舞台ならでは」

 瞳や声に光を宿し、人の話をよく聞きながら、しっかりと自分の言葉で話す。かつては人見知りだった彼女も、26歳の今は「女優/創作あーちすと」という肩書がしっくりくる。昨年開催された個展の「“のん”ひとり展-女の子は牙をむく―」というタイトルもなかなか刺激的だ。

「自分の中から何かが湧き上がるときは、その根底に怒りがあることが多いんです。今って、怒りという感情が、のけものみたいになっているような気がしていて。怒りを抱くこと自体を、ためらったり、隠したりする必要はないんじゃないかって思う。とくに音楽は、その怒りからくる言葉を適度にマイルドにして、伝わりやすくしてくれるツールなので、怖い部分はあるけど、今は私の中心に欠かせないものになっています」

 何をするときも、それに慣れてしまうことがないように心がけている。驚いたり戸惑ったり怒ったり。表現活動において彼女は、常に新たな自分の感情を“発掘”し続ける。(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年8月2日号