韓国側は世界貿易機関(WTO)の一般理事会で、日本の措置の不当性を訴える予定だ。今後、提訴も視野に入れている。

 そうなれば受けて立つことになるが、日本側が有利だとは言い切れない。そもそも輸出入を制限していいのは、安全保障問題や食品の安全確保など例外的な場合だけ。今回日本側の主張の根拠になるのは、WTO加盟国が守るべき関税貿易一般協定(GATT)の第21条だ。

 国際経済法や通商政策の専門家で、上智大学法学部の川瀬剛志教授が解説する。

「今回のポイントは、安全保障上の問題として、日本側がガット第21条に適合していると説明できるかどうかにかかっています。本当に不適切な事案があって貿易管理ができていないのであれば、韓国側に非があることになります。その立証責任は、日本側が負うことになります。しかし、元徴用工の問題を絡めた対抗措置だとすれば、日本側の主張は正当化されないと思います」

 しかも、日本側の主張する安全保障上の問題が仮にあったとしても、韓国への輸出規制が認められないかもしれない。ガットの条文は1947年に起草されたもので、安全保障の範囲が戦争などに限定されているからだ。川瀬教授が続ける。

「例えば、民生品の軍事転用問題などを議論できるかどうかも怪しいのです。WTOではこれまで、安全保障問題は紛争案件にしてこなかった。だから、今回は極めて異例の事態が起きているともいえるのです」

 しかも、WTOでの決着には時間がかかる。一審の判断が出るまでには1年以上かかるとみられる。上訴審の判断を仰げば、さらに長期化する。この間、日韓関係は冷え切ったままだろう。

 韓国への規制強化もそうだが、この間、安倍晋三首相は参院選向けパフォーマンスに余念がなかった。

 元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた判決で控訴を見送るなど、世論をやたらと気にした政策決定をしている。

 一方で、米国との貿易交渉や年金の財政検証結果の公表など、批判を浴びそうなものは事実上先送りしてきた。

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国民の不満を外に向けるやり方か