私の中に先祖伝来の農夫の血が流れているせいか、立って働くことが大好きです。今日はよく働いたと思って飲む晩酌のビールは格別です。

 60歳で定年を迎えたとしたなら、まだまだ元気です。何か日銭を稼ぐすべを考えましょう。たくさん稼がなくていいのです。日銭ですから。

 名匠ジョン・フォード監督の1941年の映画「わが谷は緑なりき」を観た方はいらっしゃるでしょうか。主演はウォルター・ピジョンとモーリン・オハラ。舞台は19世紀末のイギリス、南ウェールズの炭鉱町。当時21歳だったモーリン・オハラがいいですね。私が大好きな女優さんです。

 いちばんの名場面は、一日炭鉱で仕事をして夕刻を迎えた男たちが家に帰るシーンです。

 炭坑から出てきた順に、その日の日当をもらい、賛美歌を合唱しながら家路につくのです。おそらく、家での晩酌が頭に浮かんでいるのでしょう。こういうひとときは、本当に幸せだと思います。

 年金や貯金を使って悠々自適に過ごすのも、人生80年の時代なら、よかったかもしれません。でも、100歳までナイスに過ごすためには、それではもの足りないように思うのです。稼げるまでは稼ぐ、そのために足腰を鍛えるというのが、ナイス・エイジングの方法だと思います。

週刊朝日  2019年7月19日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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