僕が桑田さんの番組を担当することになったのはもう20年程前だ。原由子さんはスタッフを家族のように大切にされていた。新参者の僕にもカレーを振る舞ってくれた。散々遊んで深夜1時を過ぎていた。どこまでも優しく、まろやかな味だった。

 TFMホールの公開ライブではギターを弾く桑田さんの後ろでコーラスも。人生ってこんな幸せなことが起こるのだと感激した。

 花火大会はスタッフみんなで。ビートルズを夜通し歌い、朝になったら味噌汁を作ってくれ、梅雨には紫陽花を眺めた。桑田さんはいろんな花の名前を知っていた。いつだって夢見る場所を教えてくれる桑田さん。♪悪さしながら男なら 粋で優しい馬鹿でいろ♪(桑田佳祐『祭りのあと』)と諭(さと)してくれ、『わすれじのレイド・バック』を聴いて何度湘南に行ったことだろう。『C調言葉に御用心』で女の子は何度涙を流したことだろう。病気で一時休養される際はNHKニュースが報じ、復帰には日本中がお帰りなさいと沸いた。

 サザンは日本人の切ないところとか、忘れてはいけないところ、嬉しいところや悲しさを全部持っていて、だから、どんなときでも僕たちはサザンを歌う。

週刊朝日  2019年7月19日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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