野尻哲史(のじり・さとし)/1959年、岐阜県生まれ。2019年5月から、運用・移住・仕事など多面的に退職後のお金との向き合い方を発信するフィンウェル研究所の代表。主な著書に『定年後のお金』(講談社+α新書)、『脱老後難民』(日本経済新聞出版社)など (撮影/写真部・掛 祥葉子)
野尻哲史(のじり・さとし)/1959年、岐阜県生まれ。2019年5月から、運用・移住・仕事など多面的に退職後のお金との向き合い方を発信するフィンウェル研究所の代表。主な著書に『定年後のお金』(講談社+α新書)、『脱老後難民』(日本経済新聞出版社)など (撮影/写真部・掛 祥葉子)
週刊朝日2019年7月19日号より
週刊朝日2019年7月19日号より

 フィンウェル研究所代表の野尻哲史さんが、「定年後の生活」について綴る「夫婦95歳までのお金との向き合い方」。今回は「退職後の収入」について。

【表】高齢者の収入と支出の金額は?勤労世帯と無職世帯で見てみると…

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 前回は地方都市への移住を取り上げました。これは生活コストを下げる努力ですが、一方で使える資金を増やす努力も必要です。そこで今回は退職後の収入について考えてみます。

 退職後の収入のことを、欧米ではRetirement Incomeと呼び、これを私は「退職後年収」と名付けました。年収という言葉からは、勤労収入のことを思いがちですが、実際には、公的年金や資産からの引き出しもこれに含まれます。

 すなわち、

退職後年収=公的年金+勤労収入+資産収入

 となります。

 公的年金を増やす方法はあるのでしょうか。まだ公的年金の受給が始まっていない段階であれば、繰り下げ受給という方法があります。公的年金の受給開始年齢を遅らせることで、繰り下げた月数×0.7%の率で受給額を増やすことができます。例えば5年間(60カ月)繰り下げると、42%(=0.7%×60)受給額を増やすことができるので、65歳から毎月20万円を受給できる人は70歳から受け取ることにすれば、受取額は28.4万円となります。

 勤労収入は長く働けることがカギです。60歳で定年を迎えても今は多くの人が仕事をしているでしょう。ただ公的年金の繰り下げ受給を念頭に置けば、70歳まで働けると良いでしょう。そのためにも現役時代の会社で再雇用されるよりも、スキルを身に付けて他の会社で働けるほうがいいですし、また「シニア起業」するのもいいでしょう。

 資産収入は資産運用による儲けという意味ではありません。持っている資産の取り崩しで賄う部分ですので、例えば資産2500万円から毎月10万円を取り崩していれば、10万円が資産収入です。残った資産を運用するか否か、何によって作り上げた資産かなどは全く関係ありません。もちろん、残っている資産を運用で増やす努力をすることは、いわゆる資産寿命を延ばすこととして非常に大切になります。

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