三つ目が、トヨタの株主総会での豊田社長の発言だ。「トヨタが死ぬのは『社内に大丈夫』という意識がまん延した時だ」と強い危機感を表明したところまではよいのだが、社内で危機感を共有するために、役員報酬を削減するだけでなく、課長級以上の管理職の19年夏のボーナスを前年比4~5%減らし、さらには組合員の19年夏のボーナスも約1割減とする。トヨタの19年3月期の連結売上高は日本企業初の30兆円の大台を突破し、20年3月期の営業利益は前期比3%増の2兆5500億円の見通しだというのに、一般組合員に「危機感を共有するために」給料を減らせとなかば脅している。まるで、「欲しがりません勝つまでは」という戦中の発想だ。トヨタが危機に陥ったのは、電気自動車への流れを完全に見誤り、海外のIT大手や新興企業との協業をうまく進められなかった経営の失敗ではないのか。素直に自分の経営能力のなさを認めて、給与全額返上くらいしたら、と言いたくなった。

 海外の経営者は、会社の業績が悪ければすぐにクビだが、日本の経営者は、業績が悪くても、とんでもない不祥事を起こしても、平気で居座ることができる。

 そこで、提案だ。自社で働く人々について、派遣・請負・パートなど雇用形態を問わず、最低賃金1500円を実現するまで、大企業経営者の報酬上限を1億円とすることにしてはどうか。時給1500円で、1日8時間、年間250日働いても年収300万円。税金や保険料が引かれればギリギリの生活だ。従業員に最低限の生活さえ保障できない経営者に「グローバルな競争に勝ち抜くために高い報酬」など笑止千万。

 大企業の経営者はこの問いにどう答えるのか。マスコミも、広告費でお世話になっているお得意さんだから矛先が鈍るのだろうが、臆せずに社長たちに問いただしてもらいたい。

週刊朝日  2019年7月19日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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