昨年10月、リオ五輪以来、約2年ぶりに復帰した伊調は昨年暮れの全日本選手権決勝で土壇場の逆転で川井を下して優勝し貫禄を見せたが、今年4月のアジア選手権では北朝鮮選手に敗れた。協会では「日本人選手は国民栄誉賞に畏怖してしまうが、外国人選手は関係ない。海外では勝てないのでは」の声もあった。決勝で川井に敗れた6月の全日本選抜選手権も苦戦続きだった。

 一方、リオ五輪63キロ級金で昨年の世界選手権59キロ級の覇者・川井は、62キロ級の妹、友香子(至学館大)と別の階級で姉妹五輪出場を目指すため、伊調の57キロ級に落とした。友香子は6月の選抜選手権で優勝しており、世界選手権に姉妹で出場する。「馨さんと(姉の)千春さん(五輪2大会銀)は簡単に五輪に出てたけど、姉妹で出るのがどんなに大変かわかった」と語った。

 今も母校で栄和人前監督の指導も受ける川井は「いろんなことがあったので」と涙も見せた。吉田沙保里(五輪3連覇)の引退で幕を開けた今年の女子レスリング界。35歳の孤高のレジェンドが後輩に引導を渡されるのは近いか。

(粟野仁雄)

※週刊朝日2019年7月19日号