国境にこだわらない言語表現をする人たちの作品に励まされ、日本人のための「国語」から自由になれた。

「だったら私もこんな素材があるから書いてみようと。素材に恵まれたというより素材がのしかかってきた。自意識過剰かもしれないけど、こういう境遇なんだから日本語のいい小説を書きなさいよ、と誰かに望まれている感じに導かれて書き続けています」

 温さんの作品には中国語がよく登場し、その響きも魅力の一つ。「わたしの国はどこにある?」という長年の問いに自分なりの答えを出していく展開は静かに胸を打つ。今、同じような境遇の子どもが増えている。

「学校の先生は忙しいから、ゆるやかに一人ひとりに対応するのは難しくても、日本語が外国語である人たちが日常を生きる大変さを、この本を通してちょっとでもわかってくれたらいいなと思っています」

(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2019年7月12日号