落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「なつぞら」。
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朝ドラの『なつぞら』は開始から2週間で観るのをやめてしまった。録画予約を消去できないのは松嶋菜々子の母さん役にまだ未練があるから。舞台を東京に移してからはあまり出てないみたい。あんなお母さん欲しいぞ。『まんぷく』も『半分、青い。』も観ていたのに、何故『なつぞら』は離れてしまったのか? 「広瀬すずの顔って、ちょっと俺のタイプとズレてるんだなー」と呟いたら、「おーい、死んでしまえー」と家内。あれ? 俺の意見は死に値するほど?
梅雨も半ばを過ぎ6月21日から毎年恒例・全国ツアーの北海道巡業が始まった。今年は旭川・札幌・苫小牧・帯広の4公演。独演会なので前座さんとの二人旅なのだが、誰に付いてきてもらうかでかなり旅の趣が変わってくる。うちの弟子は生意気にも予定が入っていた。こちらとしても弟子との長旅はお互いに気詰まり、それはそれでちょうどいい。
よその一門でいい前座さんはいないかな、と寄席の楽屋を見回す。最近、女の子の前座さんが増えた。むさ苦しい男より女子に世話をやいてもらったほうが嬉しいに決まってるが、自意識が邪魔して女子には頼めない。長旅だ。何かあったらどうする? 仮に「やだ~、一之輔師匠、私のこといやらしい目で見てる~!」とか思われたとしたら私は耐えきれない。決してやましい気持ちなどないのに何故? そんな気持ちなど毛頭ないのに! 向こうから「師匠~、私を連れてって~ん!」とか言ってくれないかなあ。……断じてやましい気持ちなどなくそう思う!
だから旅の仕事を頼むなら男前座だな。今回は柳家小はださんに決定。小はださんは入門4年目の29歳。立教大学を6年かけて卒業した勉強家だ。身長178センチ。「ムショ帰り」な髪形で、「靴ベラ」みたいな顔をしてる。もしくは壁に立てかけた「しびん」。愛嬌があるといえばあるし、ないといえばまるでない顔。「日大顔」からあえて言わせてもらうと、あれは「立教の顔」ではない。ジャズが好きでやたら詳しい。そんな顔じゃない。学生時代は少林寺拳法をやっていたそうだ。なるほど、香港映画のやられ役にいそうな顔。目黒生まれだと言う。「どこの目黒?」と聞くと「東京の、です」と嘘をついた。あの顔で、あの目黒に生まれるわけがない。絶対嘘をついている。