ついでにいうと、わたしは庭で鳥寄せもしている。モクレンの木に吊るした洗面器に小鳥の餌(アワやヒエ、ヒマワリの種)を入れてやると、キジバトのつがいやスズメの軍団がやってきて、チュンチュンチュンと騒がしく餌を食う。スズメの軍団は三十羽ほどの一師団が三つほど組織されていて、これが入れ替わり立ち代わり来るから、洗面器は見るまに空になる。三・六キログラム入りの《小鳥のフード 皮むきタイプ》が三日ともたないから、ひと月に十数袋か。スズメの食欲はすさまじい。一袋が八百円だから十数袋で九千円以上になる。毎月九千円は安くないが、野生のスズメは棲息数が激減していると聞くし、平均寿命が一、二年とも聞く。瓦屋根の家が減って巣作りができず、満足に食わないと冬越しがむずかしいのだろう。だから、うちの庭でいっぱい食って欲しい。モクレンの下のサツキが糞で枯れたが、それはまぁしかたない。

 もうひとついうと、一昨年、キジバトがモチノキに巣をかけた。二羽が交代で卵を温めていたが、ある日、青大将が枝に巻きついていた。スズメがいない。キジバトもいない。巣に卵もない。青大将を見つけたときは遅かったのだ。

 わたしはなにもしなかった。青大将も食わないと生きていけない。その日、青大将はモチノキでじっとしていたが、次の日にはいなくなって、またスズメの騒がしい鳴き声が聞こえはじめた。

週刊朝日  2019年7月12日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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