安倍首相もこれまでの国会答弁と同様、「6年間で380万人が新たに働きはじめ、年金保険料収入も上がった」などと「成果」を繰り返してかわすなど、論戦にはほど遠かった。自民党関係者は、


「あえて議論を深めないようにしたんだろう」

 安倍政権は今国会、野党との対決をできるだけ避けてきた。様々な課題を議論する予算委員会は、野党がいくら求めても4月以降は開かれず、衆参で計30日と、ここ10年で最も少ない。党首討論も難なく乗り切り、選挙を前に、「山場は越えた」(自民党幹部)との見方も出ている。

 とはいえ、年金問題は何も解決していない。今回、公表を先送りしたと指摘される財政検証。年金の給付水準の見通しを示すものだが、安倍政権が「年金制度は100年安心」と主張する根拠にあるのが、前回2014年に公表された結果だ。ただ、前回は高成長を前提としており、「見通しが甘い」との声が強かった。今回は「厳しい結果が出る」との悲観的な見方が強まっている。

 専門家によれば、年金の水準を示す所得代替率(現役世代の平均収入に対する年金額の比率)が、14年度の62%から36年度には50%へ低下。55年度には年金の財源の一つである積立金が枯渇し39%にまで下がるシナリオもあり得るという。こうした状況を避けるためには現在の給付を削減する政策が必要になる。

 年金の争点化を避けたい与党側だが、選挙戦で再度、こうした問題がクローズアップされれば、それほど楽観はできないはずだ。

 都合の悪いものは無きものにしてきた安倍政権。今回も「のど元過ぎれば」でうまく国民の関心を遠ざけることができるのか。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2019年7月5日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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