そうしたヴォーカル・アンサンブルの変化は、デビューの頃そのままの3人だけの演奏によってより顕著なものに。かつてとの違いを印象付けた。

 初期の頃、年間303ステージをこなし、楽器を背負って旅した様を、堀内が“歌う赤帽”と評したエピソードを交えながら歌った「愛の光」。「知らない街で」やデビュー曲の「走っておいで恋人よ」。

 甘いメロディー、ソフトな語り口からは、吉田拓郎や井上陽水の活躍とともにフォークが注目された当時、ヒット曲を模索していたことや、ザ・ビートルズなどの60年代のロック、その後のクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングなどのニュー・ロックに刺激を受けてきた音楽的な背景ものぞいて見える。

 アリスの人気と評価を決定づけた「冬の稲妻」、「ジョニーの子守唄」、初めてヒット・チャートの1位を獲得した「チャンピオン」、その後の「狂った果実」に特徴的なのは、ドラマ性にとんだ歌詞や直情的なメロディー、扇情的な表現による歌唱だ。

 内省的で感傷的な哀愁味や叙情味のある曲を手がけ、持ち味としてきたことも見逃せない。今回の公演でもアリスの3人がソロを披露し、それぞれの個性を印象付けた。堀内の「帰り道」、矢沢の「風に星に君に」、谷村の「それぞれの秋」。さらに「秋止符」、「帰らざる日々」はそれを明らかにするものであり、その極め付きと言えるのが「遠くで汽笛を聞きながら」だ。

 同曲の系譜は谷村、堀内のソロ活動へと受け継がれ、谷村は「昴」「群青」といった名曲を生むに至った。

 今回の復活公演で何よりも印象深かったのは、歌詞、メロディーを吟味しながらの、丹念な歌唱だ。70歳の今を表現した自然体の歌唱がもたらす“歌”の説得力。焦燥にかきたてられ、技巧を凝らすことにも性急だったかつてとは異なる。

 重ねてきた年輪を感じさせる技と言えそうだ。ことに谷村のヴォーカリスト、パフォーマーとしての成熟がアリスを牽引する原動力なのは明らかだ。

 懐かしいヒット曲、代表曲に親しんできた者にとっては個人的な体験を蘇らせたのに違いない。が、それ以上に、時代を経て親しみをもたらす彼らのヒット曲、代表曲の普遍性を認識させるものだった。

 新曲の「限りなき挑戦―OPEN GATE―」は、アリスがよりどころとした英米のロックへのオマージュであり、“あの頃”を知るものの心をくすぐる。原点への回帰とともに、これからの活動への意欲を物語っていた。

 吉田拓郎、井上陽水、小田和正らとともに70年代の音楽界を育んできたアリス。70歳世代の活躍ぶりは頼もしく、楽しみだ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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