注目すべきは、歯磨きをした際に歯茎から出血するかどうかです。歯が健康な人であれば出血することはありません。寝ている時間、口内では菌がもっとも活発に動いています。歯と歯茎の間に歯周病菌が入り込むと、免疫反応で白血球が毛細血管を通り集結してきます。毛細血管は細いので、白血球の通行のために道を広げます。広げたぶん壁は薄くなり、破れやすくなります。この状態で歯磨きをすると、歯茎から出血します。だから出血は歯周病のサインというわけです。

 歯周病は単に歯が抜けるだけにとどまりません。歯周病菌が歯茎の血管を介して全身に回り健康をおびやかす、ということが近年わかってきました。例えば歯周病になると、誤って歯周病菌が肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎になることがあります。年をとるとのみ込む力が弱くなり、口の中が菌だらけだと、こうしたことが起きます。また糖尿病、動脈硬化、高血圧、高脂血症、肥満、メタボリックシンドローム、妊婦の早産などにも歯周病が関わっています。

 とくに糖尿病は、専門医が「まず歯周病を治療してください」と歯科医師を紹介するほど、密接に関わっています。歯周病を治せば糖尿病も改善されるのです。逆に糖尿病になると、歯周病になりやすいということも判明しています。糖尿病の人が歯周病になる確率は、糖尿病でない人の2.6倍にものぼるのです。

 さらに最新の研究では、歯周病はアルツハイマー型認知症にも関わっているということがわかっています。歯周病は酪酸という成分を生み出します。酪酸は血液を介して脳に向かい、海馬に到達すると鉄分子をつくりだします。この鉄分子が脳細胞を破壊するのです。

 今年1月にはアメリカで、アルツハイマー型認知症との関係を補強する論文が発表されています。それによれば、アルツハイマー型認知症の人の脳には「ジンジパイン」という酵素が存在しているとのこと。ジンジパインは歯周病菌が生み出します。ジンジパインの抑制薬を動物に投与したところ、アルツハイマー型認知症が抑制されたとの結果が出ました。

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