イラスト/阿部結
イラスト/阿部結

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「軽く見られる」。

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 ダイリテンって、つくづくすごいものだと思う。

 大センセイ、仕事柄、いろいろなイベントを取材する機会があるが、大げさでなく、世の中のイベントと名のつくもののほとんどすべてが、ダイリテンによって仕切られている。

「町おこし」なんていういかにも手作りっぽいイベントから、オリンピックとかパラリンピックといったビッグイベントまで、ありとあらゆるイベントをひと皮めくってみれば、必ずダイリテンが顔をのぞかせる。

 大センセイ、ジミな物書きであるから、ダイリテンとはあまりご縁がないが、ごく稀に、ダイリテン絡みの仕事が舞い込んでくることがある。

 あれは、ある飲料メーカーの仕事を請け負ったときのことであった。

 取材当日の早朝、集合場所に指定されたホテルの正面玄関に、好物の缶コーヒー片手に出向くと、遅れてやってきたダイリテンの人にいきなり見咎められた。

「ちょっとちょっと、勘弁してよ、銘柄が違うでしょう、銘柄が」

 クライアントの飲料メーカーと違うメーカーの缶コーヒーを持っていてはいかんと、まだ20代の後半ぐらいのダイリテンの人に叱られちゃったんである。

 息子でもおかしくないぐらい年の離れたダイリテン君に注意されて、大センセイ、しゅんとしてしまったが、広告の世界とはそういうものなのだろうと気を取り直して、缶コーヒーを鞄の中に隠したのだった。

 やがてクライアント企業の女性が現れると、ダイリテン君は手のひらを返したように笑顔になって彼女に駆け寄っていった。

「お早うございます。いま、タクシー呼びましたんで。朝食はホテルにサンドウイッチを作らせましたから、よろしかったら後でどうぞ」

 おお、これがクライアントという生き物かと、大センセイが女性をジロジロ眺めていると、ダイリテン君、彼女とふたりでさっさとタクシーに乗っちゃって、スタッフ(大センセイとカメラマン)は別の車でついてこいと言う。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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