そんな北村さんのジャファーは実際、違和感がない。「もがき苦しむがよい。世界の果てに飛ばしてやる!」とアラジンを極寒の地に飛ばしてしまう姿は憎々しいし、2番目から脱して宇宙一の魔人になれるときの「ウワーハッハッハー、ついにやったぞ(1番だ)」との猛々しい笑い声には人間の醜さが響く。一転、ランプに閉じ込められるとわかるや、くぐもった声色で「この恨みは絶対忘れないー」と絶叫する姿に至ってはこれぞ悪役! 吹き替え版ならではの楽しさを発見できるはずだ。

 実写版のスケールも相当なもの。北村さんも、「実写でここまでできるんだと度肝を抜かれた」と話す。例えば、空飛ぶ絨毯に乗った夜間飛行をはじめ、王子に化けたアラジンが大勢のお供を連れてアグラバーを訪れるシーン。アニメーション版からは想像できない世界が広がっている。

 ところで今回、苦労話も含め、終始楽しそうに語ってくれた北村さんが印象的だった。一体なぜ?

「僕にとって、難しい=楽しみですね。いま普段の仕事でNGを出されることが少なくなってきています。でも、僕はまだ怒られたいですし、もっと成長したい。そう思う中でのジャファーでしたので、すごく新鮮で本当に楽しめました。吹き替えながら、あえてNGを出したらもっとこのまま続けられるのにと思ってしまったくらい。終わる瞬間、もう終わりかと、心から残念でなりませんでしたよ」

 その言葉どおり、吹き替えが終わった後、新たな思いが湧いてきたと言う。最近ではすっかり映画を吹き替えで見るようになった。

「『ここで息を入れるか』など気づきがあります。今回ジーニー役の山寺宏一さんの吹き替えを拝見する機会がありましたが、改めて山寺さんの声で映画を見てやっぱりすごいなと余計に思いました。吹き替えは感覚だけでできるものではありません。僕は今回勉強できる材料を一ついただいたので、これからも学習していきたいと思っています」

(ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2019年6月21日号