「僕が想像していたアニメーション版のイメージは宝田明さん(笑)。ところが、実写版のケンザリの声は意外や高め。見た目も若く性格もストレートな表現で、新しいジャファーだと思いました。そこで作戦変更。役づくりは芝居でも監督ありき。どういう声色がふさわしいのか、声の演出家の指導を受けながら探ることになりました」

 北村さんにとって声優は、昨年3月に公開されたアニメーション「映画プリキュアスーパースターズ!」に続く2度めの経験だが、アニメーションと実写では大きな違いがあった。

「アニメもまだ一度しか経験がありませんが、アニメーションは演出家と相談してキャラクターを比較的自由に作れると思います。ところが吹き替えはある種、人が演じている分、タイミングもあるし息遣いもある。役づくりに関しては自由があるわけではないですね」

 吹き替えに挑む前、セリフは全部覚えて現場に入った。だが、映画は英語で当然セリフのスピードも自分の間ではない。セリフをはめようと思っても合わないこともしばしば。怒りの感情一つにしても、日本人の考え方とは違うため、自然に見せることは難しいだろうと予想はしていたが、実際、それを調整しながら合わせていく作業はチャレンジだったと言う。

「声だけで演じるので、自分で動いてセリフを言うのとは勝手が違います。声だけで強弱を出したり、抑揚をつけるスピードもそう。俳優には動きがある分、そこに抑揚をつけないようにしようと消している部分を、逆に声優はデフォルメしていく感じ。実際に振り返った音というのも俳優の芝居にはない。でも台本に『息』と書いてあると、『ダバッ』と言わなくちゃいけないなとか(笑)」

 さらに、俳優ならではの悩みもあった。声を担当するケンザリの「芝居を見てしまう」ことだ。

「僕だったらこう動くけどなと思ってしまうところはありました。でも、俳優それぞれのいろいろなやり方がありますので、それを受け入れることはできます。僕は見てくださる方たちに、どうやったら楽しんでいただけるかを考えながら演じました。俳優の動きに声を当て、どうすればふさわしいかを自分で考え、もっと良い方法があれば演出家に聞いてやってみる。自分の声の演技を客観視できないので、そこは演出家さんを信じました。彼はセリフに感情が乗らないと絶対にOKしなかった。僕がすごく好きなタイプの方でしたので、信頼して任せられました。ものを作るということは一つひとつそういう積み重ねではないかと思います」

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