「いろんな人が集まって、わいわい楽しく暮らせるような場にしたかった」と夏山さんが言うように、入居者は多彩だ。

 ネパール、中国、台湾、ベトナムからの留学生、美大生やフリーライター、会社員もいる。

「面倒になることを嫌って高齢者を敬遠する物件も多いが、うちは歓迎です。シニア向けの不動産仲介サイトにも物件を載せています」

 夏山さんの言う「いろんな人」には、世代の幅広さも含まれているのだ。

 そんなわけでクロスコート向ケ丘の最年長入居者は、62歳の渡辺一郎さんだ。渡辺さんは最初、入居者同士の交流や食事付きに惹かれてここに入居した訳ではなかった。

 土地家屋調査士の事務所でアルバイトする傍ら、宮崎県に住む両親を兄弟交代で見守っている。

「二重生活なので節約したかった。最初は家賃の安さを魅力に感じました」

 15年前に離婚してから住んでいたワンルームマンションを引き払い、昨年10月に入居した。しばらくして食事の提供が始まり、夕食が500円で食べられるならと利用を始めた。

 食事をしながら他の入居者と語らうのは楽しいと、渡辺さんは話す。

「先日は美大生の子とおしゃべりしました。どこの学校に通っているとか、自分も昔、大学で美術史学を勉強したとか」

 時折開かれる、入居者やその友達が集まるバーベキューやパーティーも楽しみにしている。

「ダンスが得意な人や、オーストラリアの民族楽器奏者もいると聞いている。お話してみたいですね」

 65歳以上のシニアに賃貸物件を紹介する、R65不動産代表取締役の山本遼さんは、こう話す。

「自立心のあるシニアが求めるのは、自分らしい暮らしを確立した上での、他者とのつながりだと感じる。だからクロスコート向ケ丘のような、独立した居室にコミュニティースペースが加わった物件が求められるのでしょう」

 山本さんは個人事業としてシェアハウスも6棟経営している。こちらもシニア歓迎なのだが、60代以上の入居者はいないという。

「問い合わせや見学はあるが、入居までは至りません。リビングや水回りも共用では、プライバシーが保てないと感じられるようです」

 まずは自立した生活が基本というのは、グループリビングのCOCOたかくらも強調していた。「自立の上での、他者とのつながり」は、シニアのシェア生活のキーワードなのかもしれない。

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