妻太郎に偽物をプレゼントするわけにはいかないが、さりとて正規代理店の公式サイトを見ると、デパートと変わらない値段である。

「えーい、ままよ」

 さすがに正規品の3分の1の値段は怪しいと思って、大センセイ、半額よりちょっと高めの並行輸入品を思い切って買ってみることにしたのである。

 待つこと、二日。

 無駄に大きな段ボール箱が届いた。おもむろに開けてみると、見るからにチープな外箱が現れた。

「これは、やはり……」

 脳裡を「非正規」という言葉が駆け巡った。

 大センセイ、新卒で入った会社を辞めた後、しばらく非正規社員として働いていたことがあるのだ。正社員と遜色ない仕事をしていたつもりだが給料は半分、ボーナスはゼロであった。

 やっぱり非正規には偽物が多いのか、だから冷遇され、軽く扱われるのか……。

 大センセイ、祈る思いでハサミを握りしめ、ムートンの毛をちょん切ってアルミホイルの上に乗せた。

 ライターで火をつけて、燃えカスが残らなければ本物、残れば偽物だ。

 チリチリチリ……。

 燃えカスは残らなかった。

 正規と非正規なんて、実はパッケージが違うだけのことなんじゃないのか。

 給料返せ!

週刊朝日  2019年6月14日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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