なるほど、要人を守るためには観客席に目を配らねばならない。いくら相撲大好きSPだからってジーッと取組を観ていたらそれは職務放棄だ。「夢にまで見たコクギカンの正面マスセキ……。そこにステイしてるのに俺はターンすることもアイ・キャン・ノットなのか……。これじゃスネークノレアゴロシじゃないか!!」慟哭のあまりルー風味になってきたマルハチ。

「こんなことならSPになんかなるんじゃなかった……いや相撲なんか好きになるんじゃなかった」だんだん話が大きくなってきたな。改めて私的に観に来ればいいんじゃないかな? 「でも俺はユナイテッドステーツのために職務を遂行するつもりだ」あ、良かった。そのほうがいいよ。飛び交う座布団からトランプとメラニアを守るのはお前なんだよ。ま、当たってもびくともしなそうだけど。

「だから俺は職務中……代々の横綱を心のなかで諳んじることに決めた!」あ、また変なこと言いだしたよ。「初代・明石志賀之助、二代目・綾川五郎次、三代目・丸山権太左衛門、四代目・谷風梶之助……」便箋一枚ビッシリ横綱。とにかく無事に千秋楽を終えるのを祈るばかり。頑張れ、マルハチ。

 まぁ、つらつらと嘘を書いてきてなんですけど、偉い人がすることに振り回される人たちにもいろんなドラマがあるかもね……って話。WWEに出てた頃のトランプの大ファンっていう相撲茶屋の従業員もいるかもしれんし。ああ、明日がいろいろ楽しみ(5月25日現在)。

週刊朝日  2019年6月14日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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