お金がないと喰っていけないと思わされて、人の生き方が一本化されていった時代に、人の生きる幅はもうちょっと広いんじゃないかと。大杉の軌跡を追うだけで、そういうことがパッと見えたりするんです」

 文章を書くうえでは舞踏家の土方巽(つじかたたつみ)の影響を受けた。彼の舞踏は有用な体の使い方を根っこから崩して出てくるものだという。

「こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけないと、頭は人を縛るんですよ。有用ではなく無意識に動いてしまう体の経験から頭でっかちを打ち破る。自分で体験してきたこととセットで語らないと思想は人に伝わらない。自分の中から湧き上がってくる言葉、出てきてしまう言葉を書いていきたい」

(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2019年6月14日号