栗原 康(くりはら・やすし)/1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程を満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。著書に『大杉栄伝―永遠のアナキズム』『村に火をつけ、白痴になれ―伊藤野枝伝』など。(撮影/横関一浩)
栗原 康(くりはら・やすし)/1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程を満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。著書に『大杉栄伝―永遠のアナキズム』『村に火をつけ、白痴になれ―伊藤野枝伝』など。(撮影/横関一浩)

 大正時代のアナキスト、大杉栄、伊藤野枝の評伝が評判になった栗原康さんが、「文學界」の連載をまとめたエッセイ集『執念深い貧乏性』を出した。

「好きなことを書いていいと言われて、ワーイと思いながら書きました」

 自身も多額の借金を抱える奨学金、後に自身が小説化した映画「菊とギロチン」、韓国のアナキスト、自給自足する山伏、天皇制など、日常の中で考えたことが綴られている。読み進むと、自分がいかに効率やお金の尺度にとらわれているかがよくわかる。

「人は気づくと生産的になるように鍛えられてしまう。そうなると息苦しいし、生産的じゃないことをしている人間が憎たらしくなってディスり始めるんです」

 エピソードから考察を広げ、この社会システムから自由になってものを見るヒントを示してくれる。

 驚くのが文体だ。冒頭から「チクショウ」を7回連呼し、「ピカピカしたあまっちょろい希望なんてもうたくさん。孤独などガリガリと喰い散らかしてやれ」「毎分毎秒、仕事なし。負けで上等、ヨーシッ!」、最後には「自分の人生を爆破しろ」と息巻いている。

 大学院でアナキストを研究していたときは、かっちりとした硬い文章で論文を書き、大学に就職することを考えていた。

「本当はドロップアウト上等!というアナキストの思想にひかれていたはずなのに、気づいたら大学の先生になるための研究になっていた。アナキズムの爆発的な思想を客観的に書いたらつぶしてしまう」

 転機は東日本大震災だった。人はいつ死ぬかわからない。就職なんてできなくてもいいから、面白いと思ったことをそのまま表現してみよう。そう考えて大杉栄の評伝を書いた。

 勢いのある語り口は好評で、もう少しやってみようと、1作ごとに進んでいくうちに今の文体にたどりついた。リズムのよさは音読しながら書いているからだ。

 自身もアナキストの栗原さんは、新宿の喫茶店などに集うアナキストの友人たちから刺激を受け、勉強会をしたり、デモのビラを作ったりしている。大正時代のアナキストたちの生き方にはずっと励まされてきた。彼らは働いていなくても友人の助けなどで生きていた。

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