さらに久保田はKREVAにリズムの大切さについて話した。

「1小節に音符が4つあったとして、でも、それは均等な4つではありません。音符と音符の間が長かったり短かったりして、1小節の中で辻褄が合っています。その音符と音符の間を久保田さんは“ポケット”と言いました。音符と音符の間のポケットのどのあたりに声を乗せるかで、ヴォーカリストの個性が表れると教えてくれた。そこに気づき、音楽の聴きかたも変わりました。たとえば、忌野清志郎さんがワン・アンド・オンリーのヴォーカリストである理由の1つは、あの独特のリズム感だと思います」

 自分の場合はポケットのどこに声を乗せるとリスナーに言葉がきれいに届くか――。KREVAは試行錯誤を重ね、歌いやすいポイント、言葉が一番伝わるポイントを探し続けた。

「その成果が表れているのが『音色』だと感じています。何度も何度も歌ってきた曲なので。歌詞がシンプルであることも普遍性を生んでいるとも思っています。KICK THE CAN CREWの初期の曲には、年齢を重ねると歌いづらくなる歌詞もあるんですよ。でも、『音色』は、いくつになっても歌えます。その年齢その年齢の『音色』になります。つくったときよりも今のほうが自然に感じるほど。歌詞がシンプルだからだと思います」

『成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~』を聴くと、KREVAが書く歌詞には共通点があることにも気づく。どの曲も前向きなのだ。ラップはニューヨークやアメリカ西海岸のマイノリティのエリアで発展した。だから、社会への怒り、過酷な環境で戦いを挑む気持ちが表現されることが多い。しかし、KREVAの作品はどれもポジティブなのだ。

「ヒップホップグループRHYMESTERのMC、宇多丸さんは、向上心をヒップホップにするのは一種の発明だと言ってくれました。向上心をヒップホップにするのは、一種の発明だと。実は、それまで向上心を音楽にしている自覚はありませんでした。宇多丸さんの言葉も僕の自信になっています」

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