急性心筋梗塞は激しい胸の痛みを伴うことも (※写真はイメージ)
急性心筋梗塞は激しい胸の痛みを伴うことも (※写真はイメージ)
労働時間と急性心筋梗塞の発症リスク (週刊朝日2019年6月7日号より)
労働時間と急性心筋梗塞の発症リスク (週刊朝日2019年6月7日号より)

 年間10万人が発症し、3万5千人が亡くなる急性心筋梗塞。60、70代に多い特徴があり、生活習慣や加齢による血管の変化が主な要因だ。さらに最近の調査で、現役時代の働き方が影響して、動脈硬化が長年進行する“蓄積効果”の問題も浮上。長時間の勤め人で発症リスクが高いことがわかってきたのだ。

【図表でみる】労働時間と急性心筋梗塞の発症リスク

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 現役を退いて数年のミノルさん(60代、男性)は、ある朝、目覚めると、胸に激しい痛みを感じ、脂汗が出てきた。家族に救急車を呼んでもらい、病院へ搬送された。急性心筋梗塞と診断され、すぐに治療を受けて事なきを得た。

 現役時代、営業職で夜遅くまで忙しく働いていたミノルさん。引退後は血圧は高めだったが、心筋梗塞を発症するほど動脈硬化が進行しているとは思いもよらなかった。朝起きて歩き出すと胸に痛みを感じることがあったが、すぐにおさまっていたからだ。

 急性心筋梗塞は、心臓の「冠動脈」が詰まり、血流が途絶えて心臓の筋肉の一部が壊死してしまう病気だ。冠動脈が詰まる主な原因は動脈硬化で、その進行によって血管に血液のかたまり(血栓)ができて血液が流れなくなってしまうのだ。血管へのダメージは長い時間をかけて蓄積していき、自覚症状はほとんどなく、ゆっくりと進行していく。

 心筋梗塞の発症は、60歳以上が全体の4分の3ぐらいを占める。日本心血管インターベンション治療学会理事長で、東海大学医学部循環器内科学の伊苅裕二教授はこう話している。

「日本で心筋梗塞発症の平均年齢は68歳ぐらいになります。心筋梗塞はマルチファクターで、一番大きいのは年齢です」

 国立循環器病研究センター病院冠疾患科部長の野口暉夫医師も「60代から70代にかけての人が多い」と話す。

 のんびりと過ごすことができる定年後の世代に、ある日突然、襲いかかってくる急性心筋梗塞。原因となる動脈硬化の危険因子は、加齢のほか、高血圧や高中性脂肪、高血糖、喫煙、ストレスなど。ここで注目すべきは、心筋梗塞の発症は、60、70代での生活習慣だけでなく、現役時代のストレスや長時間労働なども影響している点だ。最近、興味深い調査結果が公表されている。

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