番組スタッフを交えてのガールズトークに時折お邪魔する。ユーミンファッションが殊(こと)の外楽しく(ツツジの映える季節には、なんとピンヒールが一本生えた真紅のバッグを抱えていた!)、アバンギャルドなそのセンスに仰天し、思わず歓声をあげてしまう。

 武道館のコンサートも終盤近くになり、麻美さんがしくしく泣き始めた。正隆さんをユーミンがステージに呼び、彼の伴奏で『卒業写真』を披露したラストのサプライズで、とうとう両手で顔を覆ってしまった。

「私は14歳で作曲家としてデビューしました。だから、曲を作ることはいつまでも忘れないでいたい。みんなが私の作品を知ってくれていると気づいたのは、ほんの最近のこと。これからも聴いてほしい曲は沢山あるし、ショーのアイディアも沢山あります」

 そう言ってユーミンは千穐楽、満員総立ちのステージでマイクを置いた。

 終演後、多くの関係者に紛れるように、麻美さんは楽屋の片隅でユーミンを待っていた。TVカメラも入っていたが、撮影が終わるとユーミンは彼女を見つけ、その場で強く抱きしめた。

週刊朝日  2019年6月7日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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