田口教授は国土交通省の大都市交通センサスのデータを基に、時刻表、乗降客数、乗り換え経路などを入力し、首都圏の鉄道利用動向を試算した。首都圏の通常の鉄道利用者は1日800万人。そこに最も観客が多い日の65万人を移動経路に上乗せすると、乗車率200%以上の電車が1.5倍に増えるという。

「通勤ラッシュと観客の移動が重なれば、駅に滞留する人数は膨れ上がる。例えば永田町駅で通常(平日ラッシュ時)の3.2倍、東京駅、新宿駅でも2倍以上の混雑が予想される。駅によってはパンクし、運行が止まる危険性がある」

 競技場の最寄り駅、近隣駅は当然混雑する。新国立競技場に近い代々木駅は通常の3.6倍。東京辰巳国際水泳場などがある湾岸地区へのアクセスで利用される東京臨海高速鉄道りんかい線やゆりかもめは、2倍以上の乗降客が見込まれる。新木場駅は3.8倍、大井町駅は2.5倍に膨らむ。

 東京メトロは3月、大会期間中の列車の増発と終電の繰り下げ、会場最寄り駅における臨時自動改札機の増設などを実施すると発表した。JR東日本は「始発と終電の延長について検討中」と答えた。そのほか、田口教授はこう提案する。

「競技場の最寄り駅の利用を控え、アクセス駅を分散させる。徒歩20分以内の駅を複数利用し、競技開始の1時間前など余裕を持った到着を目指せば、混雑を平準化できる。主要な路線と駅の混雑に対しては、普段の利用客の抑制が最善策である」

 また、混雑緩和策として昨年6月、20年に限って祝日をずらし、7月24日の開会式前後は4連休、8月9日の閉会式前後は3連休にする法改正が成立した。

 大会組織委員会と都は、公共交通事業各社や経済団体など関係機関を集めた輸送連絡調整会議を設置。大会期間中の出勤退勤のピーク時間帯の交通量を減らすべく、休暇取得、テレワーク、時差出勤などを呼びかける。内閣官房担当者は「今は関係各所にお願いをしている段階」と言うが、各企業への働きかけについて、日本経済団体連合会は「現時点ではしていない。今後の見通し次第」とした。

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