曜子さんの優しさや明るさをどう表現すればいいのか、悩んでしまった。でも中野量太監督が「認知症になっても落ち込んでいるばかりではなく、人は前を向いて進むもの。曜子さんはそんな感覚を自然に持っているお母さんなんです」と言ってくださった。何度も優しく叱咤激励していただいて、演じることができました。

 娘役の竹内結子さん、蒼井優さんとは初共演。2人ともすごくしっかりしていました。

 そのなかで、私が一番頼りなかったのかな。監督には「撮影中も現場でも母と娘というより3姉妹、しかも松原さんが一番下の妹のようだった」と言われてしまいました(笑)。

――中野監督は、宮沢りえさんが主演した作品「湯を沸かすほどの熱い愛」で、さまざまな賞を受けた実力派だ。

 中野監督はやわらかくて、優しいんです。私と同い年のお母さんがいらっしゃる、と話してくださいました。撮影中も絶対にダメって言わないんです。「松原さん、いいですね! いいですね~! でもこうしたほうが、もっといいかな?」と、上手に自分が思う方向へと、役者を運んでいくんです。

 この映画のストーリーは本当に身につまされるもの。次はもう、自分が介護される番なんですよね。夫と二人で日々の生活のなかで転んだり、入院することがないようにしようね、と気をつけています。健康のためにはバランス良く食べること。そして何かと用事を見つけて出かけることも大事。最近は散歩をして、より意識的に歩かなければ、と思っています。

――デビューから60年近くなった。まだまだ仕事を続けていく、と微笑む。

 常にいただいた役柄に集中して一生懸命にこなしてきました。殺人犯の役もやりましたしね。そこに至るバックボーンがしっかり描かれていれば、やる意味があると思うんです。

 私には自分から「これがやりたい!」と言い切れるものがないんです。こういう役がやりたい、とアピールするタイプでもない。それでもやっぱり演じることが好きなんですね。

(聞き手/中村千晶)

週刊朝日  2019年6月7日号