もっとも、それらは演奏、サウンドの一要素にしかすぎず、アメリカン・ロックの様々な要素をミクスチャーした音楽展開に独自性を発揮している。バイクのエンジン・ノイズに始まる「東から西へ」など、フォーキーなスタイルからカントリーのホンキー・トンク調、フォーク・ロックからサイケデリック・ロック的な展開へと変化を見せるあたり、その好例だ。ことに佐藤の12弦ギターと青木のギターによるアンサンブルはグループの看板でもある。ピアノ、オルガンなどで音楽的な幅をもたらすキーボードのみんみん、簡潔な演奏によるドラムスの近藤宏樹といったサポート陣の貢献も見逃せない。

 そうした音楽性とともに注目したいのは佐藤ユウキの作詞、作曲による“歌”、心情を浮き彫りにする歌詞やどこか懐かしく郷愁を帯びたメロディーだ。

 本作で佐藤が手掛けた曲の大半は、育った東京の多摩地区を背景にしたものだという。都会の喧騒とは縁遠く、自然を残したこの地区の雰囲気が浮かび上がる。郊外を走りぬけ、川を渡る私鉄などからのぞいて見える情景が思い浮かぶはずだ。アルバム・カヴァーやブックレットの川名晴郎によるイラストからもその情景をうかがい知ることができる。

 川沿いとおぼしき通い慣れた道で、梅の花の匂いに春の訪れを感じながら“あなた”の姿を探す「小梅」。通せんぼする信号機からそれたのが“いつか歩いた道”であり、“きみ”が好きだった花を探した思い出、本当のことがひとつも言えなかったと歌う「多摩堤通り」などでは情景が呼び起こす追憶の様が歌われている。日常の生活で疲弊し揺れ動く心情を描いた「線路沿い」「帰り路」といった曲も印象深い。

 「9月の朝」で歌われる東京駅のホームでの情景から浮かび上がるのは、佐藤が生まれた岩手、釜石への思いだ。それには生まれた家や町が津波で流された3・11の出来事が影を落としているという。

 その曲はじめ、うつむき加減ではなくまっすぐな視線ながら、歌、歌詞からくみ取れる言い表しようのないもどかしさ、喪失感も3・11の出来事が大きいかもしれないとも語っている。

 ベスト・トラックは瞬発力のある力強い演奏と歌による「最高の夜」。全体に、華やかさとは無縁で、ダークでシリアスだ。実直な演奏による音楽展開と“歌”、佐藤のバリトン・ヴォイス、その歌唱の説得力にひかれる。

(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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