スイスで5年過ごして帰国し、09年に新国立劇場バレエ団に入団しました。12年からプリンシパルとして経験を積ませてもらっています。ヘルシンキやブルガリア・ヴァルナ、ソウルなど国際コンクールで入賞できたのは、スイスでの厳しい経験があってこそだと感じます。

 映画では、ヌレエフの反抗的で身勝手な性格までが、よく描かれています。才能豊かで傲慢(ごうまん)な彼は、その性格ゆえに活躍の場から遠ざけられることもありますが、友人や恩師らの助けを得てダンサーとして成長していきます。周りの人間が彼を愛したのは、天才ダンサーだったからではなく、踊るために努力し続けられる才能があったからではないでしょうか。

 僕は、昔からヌレエフの公演の映像をよく観ていました。ヌレエフが活躍した60~80年代といまでは、同じ演目でも振り付けはまるで違います。回転や技の内容など技術だけを見れば、いまの振り付けの方が難しいかもしれない。

 一方で、野性味を持ちながらも美しく正確な足さばきや、一つひとつの音と踊りのステップがしっくりと馴染む、彼の音楽性の高さは、半世紀の歳月を経てもまったく色あせることはありません。映画で指導者のプーシキンに言われたように、ヌレエフは、「舞台で誰よりも冗舌に物語を語る」ダンサーです。だからこそ観客の心を打ち、熱狂させたのでしょう。

「記録より記憶に残るダンサー」

 この言葉が誰よりも、ふさわしい踊り手ではないでしょうか。

 タイトルの「ホワイト・クロウ」は、「はぐれ者」の意です。人を魅了する反逆児・ヌレエフの人生を通じて、ひとりでも多くの方が、「バレエって面白い」、そう感じてくれることを願っています。
(構成/本誌・永井貴子)

※週刊朝日オンライン限定記事