TVドラマ「よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~」の主題歌の「遠い夜明け」は迷いや不安を抱えながら希望を持って働く人への応援歌。冨田恵一の緻密なアレンジが光るポップな音楽展開をバックにはつらつとした歌を聞かせる。

 同じく冨田恵一の編曲で本作が生まれるきっかけになったという「スターマイン」。夏の日の夜に堤防に登って“君”と見た花火、共に過ごした時間を描いた情景や心情の描写からは、誰もが、過去の出来事が思い浮かぶに違いない。

 借りたままのギターから友人との思い出がよみがえる「黄昏ギター」も胸をうずかせるものがある。「Progress」を生んだ面々が再集結した演奏と冷静なスガの歌唱が説得力をもたらす。いずれも肩ひじ張らずに自然体で取り組んだ新たな成果だ。

 スガならではのファンク・ナンバーでは、片思いのもどかしい心情を女性目線で歌ったスローでヘヴィーな「あんなこと、男の人みんなしたりするの?」、OKAMOTO’Sのハマ・オカモトが参加したディスコ・スタイルで、自虐的な歌詞にMummy-Dのからかいのラップが絡む「ドキュメント 2019 feat.Mummy-D」、かつてのShikao & The Family Sugarが再集結した「マッシュポテト&ハッシュポテト」がある。

 その一方で、ジャジーなボサノバ風のギターとトラップ・スタイルによるリズムが混在した「am5:00」で新味を見せる。

 本作でのハイライトは「おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった」と「深夜、国道沿いにて」の2曲。前者では上京してミュージシャンに憧れる若者と、東京に生まれ育ってヒモのような自堕落な生活を夢見た若者の今、現実を描きだす。“花の都で夢を掴むため 手を伸ばしたかった”という一節からスガの東京への思いが見え隠れする。

 後者では国道沿いの人気のないラーメン屋でよみがえるスガの小学校時代の思い出が歌われる。哀愁を帯びた切なさを覚える歌に引き込まれ、泣かされ、胸を打たれる。ストーリー・テラーとしての本領、確信犯的なスガの手腕には恐れ入る。

「最高傑作ではないけれど、めちゃくちゃいい曲ばっかり~過激さや最先端っぽさはあまりありませんが、やさしさや笑いや涙や勇気がリアルに描かれています」と語るあたり「してやったり」と喜びや楽しみを覚えながら取り組んだスガシカオが思い浮かぶ佳作だ。
(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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