僕は、実に「普通」なんです。特殊な才能は一切なかった。でもそれはどこかで補っていけばいい。どこかで「こういうタイプが、俳優をやってもいいんじゃないの」って、ずっと思ってきたんです。

――芝居に誠実に向き合いながらも、がむしゃらに人と競い合う、というのとは少し違う。その在り方は俳優としての平泉成の印象に重なる。

 全部の役を一生懸命はやってきましたけど、自分が主役をやってきたわけじゃないしね。脇をやりながら、与えられた仕事、役の責任をしっかり果たしながら、余裕があれば、自分がやりたいことを役の中に少しだけ入れるんです。

 どんな役をやるにも、ひとつだけ守っていることがあります。それはね、「下品にならないようにできたらいいな」ということ。

 人は「下品になりたい」と思って勉強したりしないでしょう。できるだけ品よく素敵になるために、人はみんなたぶんがんばって勉強するんだよね。だから悪役をやるときにも、それだけは考えています。

――ギターや歌、楽器ケーナ作りなど多趣味でも知られる。そして「イクメン」だったと振り返る。

 俳優の仕事はおもしろいんです。でもケーナを作るのも、バラの花を育てるのも、孫の様子を見てるのも、おもしろい。そういう楽しみ方を一年中している。全部捨てて、「芝居だけ!」ということでもないんですよね。

 それに、やっぱり家族が大事ですからねえ。36歳で結婚しましたが、なにがなんでも芝居、家庭があとで芝居が先、とはならなかった。子育てもけっこうしたと思います。子どもを初めて持ったとき、まったく知らない世界だったからおもしろくて、自然と夢中になりましたよ。

 家族の存在があるから「もっといい芝居して、もっと仕事をがんばらなきゃ」と思える。悪役や犯人役も喜んで引き受けたし、全てを一生懸命にやってきた。役者として「板(舞台)の上で死にたい」という人もいるだろうけど、そうは思わないんですよね。畳の上で死にたいし、やっぱり役者は楽しくできることがいいなあ、と。

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