ジャーナリストの田原総一朗氏は、安倍首相の“方向転換”に関して、その事情を推測する。
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1週間前までは、安倍晋三首相が三度、消費税増税を先送りにし、そのことについて国民に信を問うという形で総選挙、つまり衆参ダブル選挙を行うのではないか、ということが政界でもマスメディアでも大問題となっていた。
マスメディアでは、過半数が消費税増税先送りにも、衆参ダブル選挙にも批判的であった。消費増税先送りは恥ずべきポピュリズムで、要するに負担の先送りという無責任なやり方であり、ダブル選挙も首相の解散権のもてあそびだというわけだ。
だが、ここへ来て大きな問題が生じた。安倍首相が6日夜、首相公邸前で記者団に「私自身が金正恩(朝鮮労働党)委員長と条件をつけずに向き合わなければならない」と語ったのである。つまり無条件で日朝首脳会談に臨むという意向をはっきりと打ち出したのだ。
これは大きな政策転換である。
これまで、安倍首相は核兵器を保有し、核実験を繰り返していた北朝鮮に対して、最大限の圧力をかけ続ける、と力説し、拉致問題を進展させるために日朝首脳会談をしたいと述べ続けていたのだ。なぜ大きな政策転換をしたのだろうか。
ところで、2月末にベトナムのハノイで行われた第2回米朝首脳会談は、合意に至らずに終わった。トランプ大統領と金正恩氏の思惑に大きな食い違いがあったようだ。
ところが、会談後、トランプ氏は金正恩氏を一切批判せず、次なる会談に前向きの姿勢を示しているのだが、北朝鮮側は私などが異様に感じるほど、米側に対して強い姿勢、つまり会談を拒んでいるとも受け取られかねない反発を示している。
あるいは独裁国としては、トップが相手国に対して、いささかでも妥協的になったということになると、国民の不信感を招くと危惧しているのだろうか。
さらに5月4日に、北朝鮮の東海岸の元山付近から飛翔体数発が発射された。この飛翔体について、「短距離弾道ミサイル」だったという見方が強まり、米韓を揺さぶる狙いがあったのではないかと捉えられているが、ポンペオ国務長官は5日に米ABCテレビの報道番組に出演して、飛翔体の射程は“比較的短距離”で“米国や韓国、日本に脅威を与えなかった”と語った。