前川喜平さん。本連載では読者からの前川さんへの質問や相談を受け付けています。テーマは自由で年齢、性別などは問いません。気軽にご相談ください。
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センター試験を待つ受験生たち (c)朝日新聞社 (※写真はイメージ)
センター試験を待つ受験生たち (c)朝日新聞社 (※写真はイメージ)

 文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は、受験システムに疑問を持つ学生からの相談です。

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Q:僕は母子家庭で育ちました。裕福とはいえなかったため、母から毎日のように「この状況を変えるには勉強するしかない」と言われてきました。僕はペーパーテストなら努力しただけ、ほぼ確実に報われると感じています。最近増えている推薦入試やAO入試などは、人間性を重視するといいつつ、容姿が結果に影響を与えると思うし、塾などで受け答えがパターン化されるので、わずかな時間で正しく評価できるのか疑問です。(20歳・学生)

A:なかなか立派な心がけですね。今何を学んでいるのかは分かりませんが、ぜひ文部科学省に入ってほしい。旧文部省と旧科学技術庁からなる文科省は、文系でも理系でも、どんな分野を学んだ人でも入れる省庁です。

 私も文科省時代、入省希望者の面接を多く担当してきましたが、私が志望者を見るポイントは「この人と一緒に働きたいかどうか」。文科省は、人の心を育む教育分野を扱うだけに、私は人間性を重視していました。人間性をどうやって判断するかは確かに難しい。例えば東日本大震災の翌年に行った面接で、私はこんな質問をしました。「震災によって3人の子どもを全て亡くした親と、両親を亡くした子どもがいる。どちらがよりつらい気持ちだと思うか」。もちろんこの問いに正解はありません。「子どもの方がつらいはずだ」と即答した人がいました。理由は「子どもには経済的困難が生じるけど、親には生じないから」。私は答えに彼の人間性が表れていると感じました。合否の結果は、ご想像にお任せします。

 確かに面接には、あなたがおっしゃるような弊害があると思うし、あなたが不公平と感じる気持ちも分かります。日本のAO入試は、米国の大学がアドミッション・オフィス(AO)で一人ひとりを丁寧に見るような入学者選抜にはまだなっていないのが実情です。しかしペーパーテストだけでは、「入学してから伸びるであろう力」つまり学ぶ意欲や課題を見つけて取り組む力といったものは、なかなか分からない。だから今、多くの大学が入試改革に取り組んでいるのです。

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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