元経済産業省の改革派官僚・古賀茂明さんの連載「政官財の罪と罰」。今回のテーマは「中小企業を襲う安倍政権の愚策」。
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4月24日の衆議院経済産業委員会の参考人質疑に呼ばれた。「中小企業強靭化法案」の審議のためだ。この法案の柱の一つは、中小企業が「BCP」と呼ばれる事業継続のための計画を予め作って、災害などの緊急事態に備えるように、政府が補助金などで誘導しようというものだ。
こう聞けば、いい政策だと思うだろう。しかし、私は、首を傾げた。
それは、来年には中小企業をほぼ100%確実に襲う災難があるのに、その対策が、この法案に入っていなかったからだ。
その災難とは、人手不足である。「人手不足なら今に始まったことではないじゃないか」という人もいるかもしれない。しかし、この人手不足に加えて、来年度からは、中小企業に新たな負担がのしかかってくることを、どうも政府関係者は忘れているようだ。
それは、今年度から大企業向けに始まった残業規制の強化が、来年度から中小企業にも適用されるということだ。これまで36協定と呼ばれる労使協定を結べば、事実上青天井で認められていた残業に厳しい上限が設けられ、罰則がかかる。中小企業だからと認められた1年の猶予期間が切れるのだ。
人手不足は日々深刻化している。名目賃金も上昇傾向が明確だ。これらを背景に、2018年度の人手不足倒産は、史上最多の400件と急増した(東京商工リサーチの調査)。
そんな中での厳格な残業規制導入。同じ仕事を短い時間でこなせということになる。さらに、安倍政権は、今後も最低賃金をどんどん上げる姿勢を示している。この「働き方改革」を成し遂げるには、それでも儲かるビジネスモデルに転換する「生産性革命」が必要だ。実は、この「働き方改革=生産性革命」を成し遂げるために、欧州諸国などは30年程度かかっている。
しかし、日本では、「革命」と呼ぶ大きな変革をわずか1年で達成しろということになった。まさに「ミッション・インポッシブル」。特に、中小企業は深刻だ。