本作の幕開けは「マイ・ハート・イズ・フル」。ノラとトーマスの共作でトーマスの制作による演奏、サウンドに意表を突かれる。プログラミングされたビートは心臓の鼓動のよう。舞う風を思わせるアンビエントなサウンドをバックに、ノラは自身によるコーラスとのコール&レスポンス・スタイルでチャントのような歌を聴かせる。その歌詞、暗喩的で難解だが、どうやら現代社会を憂いながら、意思を持って生きたいという主張がこめられているようだ。

 もう一曲、トーマスとの「アッ・オゥ」はプログラミングされたドラムスなど、アンビエントなエレクトロ風のサウンドだ。恋人の心の内を探る歌詞、ノラの歌いぶりは挑発的で、毒気を含んだふてぶてしさも。

 ジェフとの共作でジェフ制作による2曲は「ア・ソング・ウィズ・ノー・ネーム」と「ウィンタータイム」。前者は生ギター主体で、フォーキーでオルタナ・カントリーの趣も。“あなたを愛しすぎる? 抱きしめが強すぎる?”と恋人に迫る歌だが“もしもあなたの妻だったら”という歌詞が物語るのは不倫の関係。カントリー曲にもあるテーマだが、むしろ伝統的なフォーク・バラッドへの追求の跡がうかがえるあたり、ノラのアメリカのルーツ音楽への取り組みの姿勢を物語る。後者はカントリー的な要素を織り込んだかつてのピアノの弾き語りスタイルを思わせる。

 前作『デイ・ブレイクス』以来のメンバーがバックを務め、ノラ自身が制作を手掛けたのが3曲。アップ・テンポの表題曲「ビギン・アゲイン」はノラの弾くピアノの力強さとオルガンとのコンビの演奏が光るR&B・ベースの曲。恋人との関係を自問しながら、やがて国の現状を憂える話に、という歌詞から、かつての「マイ・ディア・カントリー」が思い浮かぶ。

 ソウル・バラード風の「イット・ワズ・ユー」は本作でのハイライト曲だ。別れた恋人への追憶という歌詞、サザン・ソウル的なバラードにこれまで取り組んできたノラだが、今作でのソウルフルな歌唱は先達の女性ソウル/ジャズ・シンガーへの敬意がくみ取れると同時に、表現力を増したノラの歌の説得力に圧倒される。

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次作に期待抱かせる