※写真はイメージです
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 文芸評論家の斎藤美奈子氏が数多の本から「名言」、時には「奇言」を紹介する。今回は斎藤貴男著の『平成とは何だったのか』(秀和システム、1500円※税別)に書かれたこの言葉を取り上げる。

「だから、ここまで来てしまいました。」

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 冒頭には堺屋太一と司馬遼太郎への批判。斎藤貴男『平成とは何だったのか』は平成回顧モノの中でも特に辛口な本である。

 格差の拡大といい、排除と差別の横行といい、アメリカへの従属ぶりといい、<後世の人々に遡られたら、平成とは20世紀以降で最悪の時代だったというのが定説になりかねない>。それが斎藤さんの認識だ。平成末期に顕在化したさまざまな出来事は30年にわたる平成の集大成だ、と。

 今年4月にスタートした「働き方改革(著者によれば働かせ方改革)」は、もとをたどれば1995年に日経連がまとめた「新時代の『日本的経営』」に行き着く。非正規雇用者が増加した元凶のひとつもこれ。<労働時間を長く長く、賃金は低く低く、権利は小さく小さく>という方向性が平成を通じての労働政策だった。

 東西冷戦の終結とともにはじまった平成は、世界の覇権をアメリカが握り、日本が<アメリカへの同化、あるいは属州にされていく過程でもあった>。背後には市場原理にすべてを委ねる新自由主義経済があり、その象徴が94年からアメリカ政府が日本政府に送りつけてきた「年次改革要望書」だった。大規模店舗法の廃止も人材派遣業の自由化も郵政民営化もアメリカの意向に沿ったもの。昨年12月に成立した改正水道法と改正出入国管理法は<新自由主義に基づく構造改革路線が、決定的な段階を迎えつつある現実を見せつけているような気がします>。

 副題は「『アメリカの属州』化の完遂」。頭に来すぎて本の終盤はヤケッパチ気味のところもあるけれど、<平成とは、戦後の昭和がもたらした“ツケ”の数々が、一気に噴き出た時代ではなかったか>という視点は意外に重要かもしれない。「豚は太らせてから食え」の言葉通り、経済政策から戦争協力まで、アメリカの言うままに動いてきた日本。<だから、ここまで来てしまいました>

 絶望的な状況なのに、どこか痛快なのは悪口雑言に筋が通っているせい? もはや笑うしかないですね。さらば平成、ハハハハハ。

週刊朝日  2019年5月3日‐10日合併号