「どうですか」

 陛下がアイリーンさんにお尋ねになった。「陛下、もうじきできあがります」。普段は流暢な日本語が、このときばかりは、たどたどしく、アクセントがずれている感じがした。

 陛下は外国語一般、特に英語にご関心が強い。記者会見で発言した日本語が、どのような英文になっていくのか、ご興味があったのだろう。

 いや、それにもまして、夜遅く自分のために仕事をしてくれる人たちをねぎらいたい、そんなお気持ちが強かったのだと思う。

 そこにいる方が陛下であると気づいたとき、アイリーンさんは顔を上気させていた。困惑の中にうれしさがにじみ出ていた。

 陛下は、出会った人々にさまざまな思い出を残して、もうすぐご退位される。

(構成/本誌・永井貴子)

週刊朝日  2019年5月3日‐10日合併号